「赤と青とエスキース」青山美智子著

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 青山美智子の「赤と青のエスキース」(PHP文芸文庫)を読んだ。

 2022年の本屋大賞で2位になった作品。2021年に「お探し物は図書室まで」が本屋大賞の2位になったので、2年連続の2位受賞となった。

 「お探し物は図書室まで」は2023年3月にポプラ文庫から文庫本化され、「赤と青とエスキース」は今年の9月にPHP文芸文庫から文庫本化された。両方ともメジャーでない出版社から文庫本化され、少し時間がかかった点が共通している。

 さて、「赤と青とエスキース」。

 エスキースとは作品になる前の下絵のこと。下書きとは違う。

 この小説のなかでは、エスキースを「何をどんなふうに表現したいのか、自分の中にある漠然としたものを描きとめて、少し具体的にするんだ。本番じゃないから、誰に見せるわけでもないし、何度描き直したっていい。自由なところがすごくいい」と記されている。

 この小説の主役たる絵画は、赤と青の2色で絵がかれた水彩の人物画。

 水彩画で絵具が乾かないうちにペインテイングナイフで擦ってシャープな線を描く手法を使っている。

 重厚な油絵でなく、儚さのある水彩画なのが良い。

 では、なぜ絵画の題名が「エスキース」なのか。

 この絵画のモデルであり、小説の主人公の女性のパートナーは、三十数年後のラストで「エスキース」を絵の作者に返す。

「俺たちは、これからやっと本番の絵を描き始められる気がするんだ」

 エスキースは、デッサンやスケッチとは決定的に異なる点があると作者は記している。

つまり、エスキースは「それを元にして、本番の作品を必ず完成させる。描き手にその意志がある」と記している。

 なるほど。

 この小説は4つの章からなる連作であるが、共通するのは、いずれの章の登場人物も完成していないということ。
 そして、完成させる意志がある、ということだ。