役所広司主演の映画「八犬伝」を見た。
山田風太郎の「八犬伝」が原作。滝沢馬琴が南総里見八犬伝を執筆し、完成させるまでを「虚」と「実」を交錯させて描いている。
滝沢馬琴の友人の内野聖陽の演じる葛飾北斎が良い。
葛飾北斎は、滝沢馬琴の戯曲の挿絵を描いていたが、喧嘩別れしたと言われているが、この映画のなかでは切磋琢磨しあう友人として描かれている。
来年の大河ドラマは蔦屋重三郎を主人公にした「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺」ということで、これから浮世絵、とくに絵師ブームが来そう。
しかも、新1000円札のデザインに神奈川沖浪裏が選ばれたことから、今後は葛飾北斎の人気が高まるだろう。
今年の夏、墨田区の「すみだ北斎美術館」と長野県小布施町の「北斎館」に行った。
葛飾北斎は弟子の高井鴻山に誘われて、80歳を過ぎてから、江戸から徒歩で碓氷峠を越えて250km以上離れた小布施町まで行ったという。
葛飾北斎の娘の応為を主人公にした、朝井かまての小説「眩」に以下のとおり書かれている。
「信州のどこなんだ」
「小布施村ってとこ」
「江戸から何里ある」
「六十四里ほどだと聞いたけど」
「てぇことは、俺の足でも七日、いや八日はかかるぜ。お前ぇ、よくも平気で行かせたな。親爺どの、もう八十五だぜ。杖が手放せねぇのに、途中で何かあったらどうする」
「それが、日本橋の十八屋さんから大八車付きなのさ。歩くのが辛くなったら車の上に乗っけてもらうらしい。がったん、ごっとん、品物と一緒に」
北斎記念館には2基の祭屋台の天井画が残されており、「男浪」と「女浪」は映画「HOKUSAI」のラストシーンに登場する北斎の集大成の絵である。
また、北斎の絶筆といわれている「富士越龍」も見もの。
黒雲を巻き上げながら富士を越えて点に上っていく龍を見ると、北斎は本当に小布施まで来たんだなと確信した。
さて、滝沢馬琴。
杉本苑子の吉川英治賞を受賞した小説「滝沢馬琴」を読んだ。両目の視力を失った馬琴が、亡くなった息子の嫁に代書を頼んで八犬伝を完成させるまでを丁寧に記している。
映画「八犬伝」のなかでは、滝沢馬琴は葛飾北斎に原稿を読ませ、ラフなデッサンのような挿絵を描いて貰う。馬琴はその絵を気に入り、物語のイメージをさらに膨らませている。馬琴がその下絵を欲しがるが、職人の北斎は半端仕事の下絵を譲るわけにはいかないという二人の掛け合いが実に面白い。
馬琴と北斎の筋の通った職人魂のぶつかり合いを、役所広司と内野聖陽の二人の名優で演じさせることによって、この映画は成功している。