来年(2025年)の4月19日~6月15日、京都国立博物館で「日本、美のるつぼ」が開催される。
「古今東西の芸術文化が混じり合いダイナミックに形作られた日本美術の至宝が集結する」という。展覧会の目玉が俵屋宗達の国宝「風神雷神図屏風」だ。
一度実物を見てみたいと思っていたところなので、この機会にぜひ行ってみたい。
さて、この「風神雷神図屏風」を題材にした小説が、原田マハの「風神雷神」(PHP文芸文庫)。
俵屋宗達が、織田信長の命を受けてローマ法王に合うために天正遣欧使節団の一員となってヴァチカンへの旅に出て、カラバッジオに出会うという奇想天外な話。
原田マハのアート小説はとても勉強になる。
日本画と西洋画は、基本的にそれぞれ独立した教科書になっている。たしかに部分的に連携させて論じている書物もある。しかし、体系的に横並びにしながら説明しているものはあまり目にしたことはない。
原田マハはためらいもなく、それを横串でグサッと刺したのだ。
俵屋宗達の生没年は定かではないが、桃山時代に活躍し1640年頃まで生きていたといわれている。
一方のカラヴァッジオは1573年に生まれ、ローマで活躍し1610年に亡くなっている。ご存じのとおり、カルヴァッジオの絵は写実的な描写と強烈な明暗対比が特徴。代表作の「聖マタイの召命」は見る者を圧倒する。
俵屋宗達とカルヴァッジオの共通点は、独自の世界観を自由に切り開き、そして後の画家たちに影響を与えた、という点。
俵屋宗達は尾形光琳や酒井抱一に影響を与え、琳派として今に伝わっている。カラヴァッジオは「カラヴァジェスキ」と呼ばれた追随者を生み、17世紀の西欧絵画全体に大きな影響を与えた。
この2人を登場させてフィクション小説を作り上げた原田マハは唯一無二の作家だ。美術への造詣が深く。キュレーターとしての実績があり、ストーリーテラーとしてのセンスがあるからこそアート小説が書ける。他の小説家にはない独自性を持っている。
原田マハは「楽園のカンヴァス」で直木賞の候補となり、山本周五郎賞を受賞する。しかし、直木賞は受賞できず、「ジベェルニーの食卓」「暗幕のゲルニカ」「美しき愚か者たちのタブロー」でも直木賞候補になるが今も受賞にはいたっていない。
例えば、司馬遼太郎は「梟の城」で直木賞を受賞している。しかし、司馬遼太郎は直木賞作家というよりも国民的な歴史小説家という印象であろう。つまり、司馬遼太郎にとって直木賞など必要なかったのだ。
原田マハにも直木賞は必要ない。
すでにアート小説家としてその地位を確立している。西洋の画家のみならず、日本画、版画、リトグラフまで世界を広げている。
司馬遼太郎は歴史の面白さを小説で伝えた。原田マハはARTの面白さを小説で伝えている。
直木賞なんて出版社の営業戦略で受賞者が決まっている。現に昔で言えば山本周五郎、最近では横沢秀夫や伊坂幸太郎などの本当に面白い小説を書く作家は直木賞と決別している。
原田マハには直木賞が似合わない。