来年(2025年)のNHK大河ドラマは「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~」が放映される。
“江戸のメディア王”として時代の寵児になった蔦屋重三郎を横浜流星が演じる。とても楽しみ。
来年は浮世絵ブームが起こるかもしれない。
蔦屋重三郎が売り出した浮世絵師は喜多川歌麿、そして東洲斎写楽。
いずれも蔦屋重三郎が辣腕プロデューサーとなって大ヒットさせた。
とくに写楽は、まったく無名の絵師がいきなり28図の役者の大首絵を蔦屋が売り出した。しかも高価な雲母摺でデフォルメした独創的なもの。
写楽の浮世絵は、今でこそ世界的に有名な日本の美術の象徴となっているが、当時の江戸っ子はさぞや驚いたことであろう。
しかも謎の絵師。
写楽はいったい何者なんだろう?
この謎をテーマにした小説が高橋克彦の「写楽殺人事件」(講談社文庫)。
昭和58(1983)年、今から40年以上前に江戸川乱歩賞を受賞したミステリー小説。
この小説では、秋田蘭画の近松昌栄という絵師を写楽である、と贋作で仕立て上げ、それに関連して殺人事件が起こるというミステリー小説。浮世絵を専門とする大学の研究者がフィールドワークとして写楽の真相を追い求める設定に具体性があって迫真に迫る。
高橋克彦は大学卒業後に浮世絵の研究者となり、大学で美術史も教えたほど浮世絵に関しての知識が深い。その後、作家に転じ、ミステリー作家の登竜門である江戸川乱歩賞を、得意分野を存分に発揮させた本作で受賞する。
写楽の謎については映画「写楽」でもテーマとして取り上げられている。平成7(1995)年に、真田広之主演で公開された。
歌舞伎小屋に出入りする大道芸人が写楽。嫉妬した歌麿が江戸から追放させるというストーリー。
写楽研究家でもあるフランキー堺が企画総指揮し、蔦屋重三郎を自ら演じている。その熱量が映画を面白くしている。
現在では、写楽の正体は阿波藩蜂須賀家お抱えの能役者の斎藤十郎兵衛であるとの説が本命視されている。学者が古文書から調べ上げたらしい。しかも、写楽の後半期は飽きられて人気が急速になくなったとの辛い評価だ。
学者は歴史の事実をはっきりさせることが仕事だろうが、粋ではない。
写楽は謎のままが良い。
流星のように現れて突然消えた天才絵師。
才能の無いただ絵が好きなだけの凡人からすれば、こういう夢のような話は人生を豊かにするために必要なのだ。