ふらっと立ち寄った本屋で、青幻社から先月発刊された「日本画小譚 マンガで読む巨匠たちの日常」が目に留まった。ペラペラ捲ってみたら面白そうなので衝動的に買ってしまった。年末年始の9連休が原因。でも読んでみたらこれが面白い。
美術大学で美術史を学んでいるわけでもないので、これまで、日本画についてきちんと体系的に学んだことがなかった。
唯一、美術出版社の「カラー版 日本美術史」と「カラー版 浮世絵の歴史」をブックオフで買って読んだことがある。この2冊がすべて。
ただし、美術出版社の「日本美術史」は古墳時代から始まって、平成の奈良美智や村上隆まで広く浅い説明をしている。本書が取り上げている明治初期から昭和初期までの近代についての記述は10ページ程度のボリュームしかない。
本書がとくに力を入れて説明している京都画壇について、「日本美術史」では、「一方、文化のもうひとつの中心地であった京都では、画家たち自身の主導のもとに、それまでの塾の形態を変えて近代的な美術の教育機関を作ろうとする動きが明治に入るとすぐに生まれている」と記し、「京都府画学校」を紹介している。
これに対して、本書は前半の大部分を京都画壇に費やし、岡倉天心をはじめとする東京画壇については最後の四分の一程度で触れている。自分の書きたいことを、潔くウエイトを多めに書いていることはお見事。
京都画壇といえば、原田マハの小説「異邦人」(PHP文芸文庫)を連想する。京都の美術の世界を描き上げ、京都本大賞を受賞している。
著者の河野沙也子も京都市立芸術大学大学院を修了している。京都画壇には馴染みがあり、自身の今につながっていることを書いたのであろう。
しかも本書は痛快マンガ評伝。
アカデミックな匂いはなく、読みやすく、素人にも親しみやすい内容になっている。こういう本で日本画に親しむことができれば、展覧会の敷居が低くなり、美術館へ足を運びやすくなる。
例えば、先日、山種美術館で開催した「福田平八郎×琳派」展で抽象的な日本画を見たが、本書では、福田平八郎について「画壇一の釣り好き」と紹介している。
「彼にとって釣りとは、絵と向き合う緊張から放たれる時間であったのだろう」と記している。なるほど。
本書を読んで美術館に足を運べば、本書で紹介していた画家たちの絵を見つけたときに親近感が沸く。日本画を体系的に勉強していない者でも理解が深まる。そうして絵を見ることがどんどん楽しくなり、人生が豊かになる。
痛快マンガ評伝に、たまたま本屋で出会ったおかげである。