2015年に公開された映画。あらためてU-NEXTで観た。
グスタフ・クリムトが描いた「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」(通称:「黄金のアデーレ」)を巡って、実際に起こった裁判と名画をめぐる数奇な物語の実話に基づく映画。
映画はクリムトがキャンバスに金箔を張り付けてこの絵を制作している回顧シーンから始まる。
この絵は、ナチスに接収され、戦後はウィーンのオーストリア・ギャラリー(ベルヴェデーレ宮殿美術館)の至宝とされていた。
戦後になって、アデーレの姪で米国在住のマリア・アルトマンが、遺言の正当性を主張して、オーストリア政府を相手に返還訴訟を起こし、「黄金のアデーレ」は2006年にアメリカに渡るというストーリー。
クリムトの作品は、甘美で妖艶なエロスと同時に、常に死の香りが感じられる。
クリムトは、1873年のウィーン万博で尾形光琳の屏風絵『紅白梅図屏風』に強い衝撃を受け、金箔と油絵を融合させる独自の絵を完成させたといわれる。
この映画は、名画をめぐる映画であるが、クリムトの描く女性の美しさを背景にして、絵のモデルであるアデーレとその姪の意思を持った二人の女性の強さを表している。
映画のラスト。
叔母の強さに引き付けられ、返還の交渉を任されていた甥の弁護士はオーストリアを訴える。そして、一弁護士が熱意による法廷闘争の末にオーストリアから絵を取り戻してしまうのだ。
この映画の題材となった、ナチスが1933年から第2次世界大戦の終結まで金、銀、通貨に加えて、絵画、陶磁器、書籍、宗教財宝などの文化的な物品までをも略奪した。
日本でもNHKが、2021年3月に番組「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」のなかで、「発見!ナチス略奪絵画 執念のスクープの舞台裏」としてナチスに略奪された絵画の発見を取り上げている。2012年にドイツのマンションの一室で、ナチスによって強奪された1,200点もの絵画(ピカソ、ルノワール、マティスなど世界的巨匠の名画)が発見されたことを題材に、第2次世界大戦の混乱と真実、歴史の闇を掘り起こした記者たちの舞台裏をドキュメンタリーにしている。
クリムトのウイーン分離派は、エゴン・シーレに影響を与えた。
2023年に東京都美術館で、「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が開催され、30年ぶり、エゴン・シーレの作品50点が集結した。
エゴンシーレは、16歳の時にクリムトと同じウィーン工芸学校に学び、ウィーン美術アカデミーへ進学した。その後、クリムトに弟子入りした。
ちなみに、シーレがウィーン美術アカデミーに入学した1906年の翌年と翌々年にはアドルフ・ヒトラーがウィーン美術アカデミーを受験して不合格となり、芸術家となることを断念した。
もしもヒトラーが美術アカデミーに入学を許されていれば、歴史は変わっていた。戦時中にユダヤ人に対するホロコーストの虐殺もなかったし、「黄金のアデーレ」が数奇な運命を辿ることもなかったであろう。