J・アーチャーの「レンブラントをとり返せ ーロンドン警視庁美術骨董捜査班ー」を読んだ。
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J・アーチャーの美術ミステリー小説といえば、20年くらい前に読んだ「ゴッホを欺く」を思い出す。
20年前にJ・アーチャーを読んだ時には、ストーリーが抜群に面白くて驚いた。しかも、イギリスのジョークが新鮮でなんとも格好良く思えた記憶がある。
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「レンブラントをとり返せ」は、レンブラントの「アムステルダムの織物商組合の見本調査官たち」を、フィッツモリーン美術館から7年前に盗難されているという設定で登場させている。
実際のところ、レンブラントの『布地商組合の見本調査官たち』は、1808年からアムステルダム国立美術館に収蔵されている。
この絵のにはレンブラントの署名が右下と右上の二か所に記されている。右下のものが画家自身の手によるもので右上の署名は他の者が後で書いたものと推測されているらしい。
「ゴッホを欺く」はゴッホの「耳を切った自画像」をウェントワース家が所蔵している設定として登場させている。
実際のところは、1888年の耳切り事件直後に描いた『耳を切った自画像(頭に包帯をした自画像)』は、コートールド・ギャラリーに収蔵されている。画家の背後に日本の版画が描かれている。「ゴッホは欺く」のなかでは、日本最大の鉄鋼会社会長のナカムラが買い取る設定になっている。
ストーリーの設定も両作品は似ているところと異なるところを有効に設定している。
「レンブラントをとり返せ」では、ロンドン警視庁の新米の捜査員ウィリアムが登場する。そして、2005年に刊行した「ゴッホは欺く」では、FBIの上級捜査官のジャックが登場する。
いずれも若くて優秀な男性捜査員。
「レンブラントをとり返せ」では捜査員を大学で美術を専攻して警察官になった主人公として設定している。
「本物はもともとケンジントンのフィッツモリーン美術館に展示されていたのですが、何年か前に盗難にあっています。その事件はいまも解決していません」
「たったいま、わたしたちが解決したわ」女性が確信の口調で言った。
「私はそうは考えません」ウィリアムは応じた。「本物は右下の隅に、頭文字で“RvR”とレンブラントの署名があるんです」
一方で、「ゴッホは欺く」の捜査員のジャックは美術に対しての知識を浅く設定し、その代わりに美術学の博士号を持つ女性アンナを登場させている。
ジャックとアンアのジョギング中の会話が象徴的だ。
フリック美術館が見えて来るまで待った。
「あの美術館に展示されている五人の画家の名前を挙げてみて」と、彼の知識不足と自分のスピード不足でちょうど釣り合いが取れていることを願いながら言った。
「ベリーニ、メアリー・カサット、ルノワール、レンブラント、二点のホルバイン-モアとクロムウェルの肖像画だ」
「正解だけど、どのクロムウェル?」と、アンナが息を切らしながら尋ねた。
「トマズだ、オリヴァーのほうじゃない」
「悪くないわよ、ストーカーくん」
J・アーチャーの警察もの小説は面白い。しかも美術品が絡んでくるとさらに面白みが増す。これは、美術に対する知識がストーリーテラーに深みを加えているのだと思う。
「レンブラントをとり返せ」の中表紙に
これは警察の物語ではない これは警察官の物語である。
と書かれている。
つまり、J・アーチャーは人間性を描いているからストーリーが面白くなるのだろう。
絵もそう。
絵を見るだけでなく、その絵の裏にあるストーリーを読み解くから面白いのだ。