「白いしるし」西加奈子著

by

in

 絵をテーマにした小説をネット検索してみたら、この本がヒットした。
 平成22年に新潮社から出版されたそうだから15年前の作品。
 ブックオフで見つけたのは、新潮文庫から出版された文庫本。頼りないくらいに薄い。
 さっそく買って読んでみた。

 短いのだけれども、絵を題材としたかなり濃い恋愛小説。
 この小説は32歳独身女性が売れない絵を描いて生活しているという設定。女性の絵と恋愛に対する激しい感情を描いたストーリー。
 主人公の女性が作品に対して語るセリフが印象深い。

「いいえ、作品は、作品を自分が仕上げた時点で完成しているんです。人に見られる時点で、それは「成功」なんやと思います。嫌いだと思われても、一目見られた後一生誰にも見られなくても、自分以外の誰かが、自分の作品を観た、という時点で、その作品は成功しているんやと思います」

 恋愛小説であるが、絵を描く人の心にも届くような小説になっている。

 西加奈子は、2014年に『サラバ!』で直木三十五賞を受賞し、2011年には『漁港の肉子ちゃん』が明石家さんまの企画・プロデュースでアニメ映画化された。
 
 小説家として有名であるが、実は絵も描くらしい。
 この本を読んでみて、絵に対しての記述のレベルが尋常ではないと感じたので調べてみた。
 西加奈子のOfficial WebsiteのGallaryで作品を観ることができる。
 小説と同じく力強い絵。どれも良い絵ばかり。西加奈子の多彩な才能を十二分に発揮している。

 ふと西加奈子の絵を観ながら気が付いた。

 西加奈子は、言葉で絵を描くことを試みたのではないだろうか。
 この小説も短い作品のなかに会話の比重を多くして、登場人物の会話の掛け合いで「言葉による一枚の絵」を描いたのではないだろうか。

 あるいは、クレヨンの絵にすることができないから言葉の絵にしたのかもしれない。
 なるほど。
 この文庫本の表紙は絵でなく、猫の写真になっている。


 絵画を題材とした西加奈子の小説をもっと読みたいと思った。

Living with Art