大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」が好調だ。
主人公は蔦屋重三郎。ストーリーは浮世絵が中心になるかと思いきや、話は平賀源内から始まった。
平賀源内といえば、本草学者、蘭学者、浄瑠璃作家などさまざまな肩書を持ち、エレキテルで有名な天才。大河ドラマでは安田顕が演じているが、怪しい感じが良くでていて、存在感を発揮している。
あまり知られていないが、平賀源内は、秋田藩士の小野田直武に西洋画を教えることによって、日本美術にも大きな影響を与えているのだ。
このあたりについて、小野田直武を主人公にした、城野武の小説「風狂の空」(祥伝社文庫)で平賀源内との交流が詳しく描かれている。
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小野田直武は、秋田藩で狩野派に学び、江戸に出て平賀源内のもとで西洋絵画技法を学んで自分のものとし、杉田玄白の「解体新書」において図を描き、日本画と西洋画を融合した独特の画風を確立していく。そして、江戸から秋田藩に戻ると藩主などに洋画を指導して「秋田蘭画」を確立させた秋田藩士の絵師。
「風狂の空」のなかで、小野田直武(武助)が日本画と蘭画を融合させるアイデアが閃めいたシーンを以下のとおりに記述している。
「なるほど、と武助は思った。
阿蘭陀絵には遠近法なりを駆使して、対象をありのままの姿を描き出すことを主題に置くという側面がある。それに比して漢画などには、写実に多少無理があっても情感とか情趣に重きを置く傾向があるだろう。
だからと云って、どちらがどうと優劣がつけられることでもなく、どれを選ぶかは見る側の好みに委ねられる事柄であった。
-待てよ。
武助はふと思い付いたことがあった。
阿蘭陀絵のよさと漢画などのよさを結合できないだろうか。そうすればより豊かな表現ができそうな気がするのだ。」
まさにイノベーションだ。
過去の慣習に凝り固まった絵の世界で、西洋画の技法である遠近法や陰影法を取り入れて、新しい日本蘭画を作り出したのだ。
平賀源内の影響がなくして、このイノベーションは起こらなかったといえる。
絵に限らず、現代社会でもイノベーションを起こすには、異端児と呼ばれる者の発想がきっかけとなることが多い。
江戸時代中期において、平賀源内が異端児として日本美術に西洋画技法の影響を与えた。
その影響を受けて浮世絵が独自の進化をした。
独自の進化をとげた浮世絵をゴッホなどの印象派が取り入れ、やがて明治維新を迎えると留学組の黒田清輝らが、我が国が見習うべき西洋文化として印象派の油絵を日本に逆輸入した。
まさに平賀源内のバタフライエフェクトだ。
しかし、ハッピーエンドではない。
「風狂の空」のラスト。
平賀源内は精神を病み、殺人を犯して牢死する。
小野田直武も「画業にうつつを抜かし、職務怠慢」を理由として切腹させられる。
いつの時代もそうだが、栄誉は必ずしも真の功労者に与えられるとは限らない。
例えばイノベーション。
張本人の異端児たちにきちんと光が当たることはほとんどない。